こんにちは。たま助です。
前回の記事(【自宅こそ最強のリハビリ室】軽症の脳梗塞から「生活」を取り戻すために)では、自宅での生活そのものが最高のリハビリになるというお話をしました。今回はその続きとして、すぐに自宅で実践できる「お食事前のリハビリ」をお届けします。
年齢を重ねたり、脳梗塞の後遺症があったりすると、どうしても「お茶でむせる」「硬いものが噛みにくい」「飲み込みに時間がかかる」といったお口の悩みが増えてきますよね。 「リハビリしなきゃ」と頭では分かっていても、面倒なトレーニングはなかなか続きません。
そこで、**「食事の前に」「たった3分で」「スマホを見ながら誰でも簡単に」**できる、お口の準備体操動画を作成しました。
ただの発声練習ではありません!こだわりのメニュー構成
今回作成した動画は、単に「パ・タ・カ・ラ」と声を出すだけの単調なものではありません。私たち言語聴覚士(ST)が、実際の病院での嚥下(飲み込み)リハビリで最も重視している**「食べるための3つの基礎運動」**をバランスよく組み込んでいます。
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1. 口の開け閉め(顎・咀嚼筋の運動) 食事の前は、顎(あご)の関節や頬の筋肉が意外と硬く強張っています。まずは「あー」「んー」と大きく口を開け閉めすることで、食べ物をしっかり噛み砕くための筋肉(咀嚼筋)の緊張をほぐし、唾液の分泌を促します。
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2. 舌のストレッチ(挺舌・左右運動) **飲み込みにおいて「舌」は最強のポンプ役です。**食べ物を歯の上に乗せたり、喉の奥へと強く送り込んだりするために、舌の動きは欠かせません。動画では、舌を「思い切り前に出す」「左右の口角を触る」運動を取り入れ、加齢で縮こまりがちな舌の可動域をしっかりと広げます。
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3. パタカラ発声(口周りの巧緻性運動) 仕上げに、唇と舌を素早く正確に動かす発声練習を行います。実はこの4文字には、それぞれ明確な役割があります。
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「パ」:唇をしっかり閉じて、食べこぼしを防ぐ
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「タ」:舌先を上あごに押し当てて、食べ物を押しつぶす
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「カ」:舌の奥を引き上げて、食べ物を喉へ送り込む
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「ラ」:舌を滑らかに動かし、飲み込みのタイミングを合わせる これらを連続して行うことで、飲み込みのスイッチがカチッと入ります。
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動画を見ながら3分間!効果を高める「最大のコツ」
これら一連の動きを、ご高齢の方でも無理なく行えるペースで3分間の動画にまとめました。画面のイラストとナレーションに合わせて真似をするだけでOKです。
動画を行うにあたって、STからお伝えしたい**最大のコツは、スピードよりも「大きく動かすこと」**です。
早口言葉のように速く言う必要はありません。「大きな声で、ゆっくりはっきりと」言うことを意識してください。舌を出すときは照れずに思い切り突き出し、声を出すときは口の周りの筋肉がしっかり伸び縮みしているのを感じながら行いましょう。
体操の後は…STが絶対チェックする「安全に食べるための姿勢」
動画でお口の準備がバッチリ整ったら、いよいよお食事です。ここで、私たちSTが病室で必ずチェックする**「むせにくい姿勢の3つのポイント」**をお伝えします。 せっかく体操でお口が温まっても、姿勢が崩れていては飲み込む力が半減してしまいます。
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1. 足の裏を床にしっかりつける(体幹の安定) 椅子が高すぎて足がブラブラ浮いていませんか?「ゴクッ」と強く飲み込む動作には、首の筋肉だけでなく腹筋や背筋の力が必要です。足の裏が床にピッタリとつき、身体(体幹)がどっしり安定してはじめて、喉の筋肉に適切な力が入り、スムーズに飲み込むことができます。
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2. 腕をテーブルに乗せる(上肢の支持) お腹とテーブルの間には、握りこぶし一つ分くらいのスペースを空け、自然と腕(前腕)をテーブルに乗せます。腕で身体を支えることで肩周りが安定し、飲み込むことに集中できます。片麻痺などがある場合でも、なるべく麻痺側の腕もテーブルに乗せておくのがポイントです。
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3. 顎(あご)を引く(嚥下圧と気道防御) 浅く座りすぎたり、テレビを見上げたりして顎が上がっていませんか?顎が上がっていると、空気の通り道(気管)がパカッと開きっぱなしになり、誤嚥の危険性が跳ね上がります。軽くお辞儀をするような気持ちで「顎を少し引いて飲み込む」ことで、気管に蓋がされ、食べ物を食道へ押し込む圧力(嚥下圧)が高まります。
【重要】「顎を引いて座る」が正解とは限らないケース
最後に、ご家族に必ず知っておいていただきたい注意点があります。
今回ご紹介した姿勢は、あくまで「座る力がある程度保たれている方」の基本姿勢です。 脳梗塞の後遺症が重い方や、長く寝たきりで体力が落ちている方(廃用症候群)の場合、自力で舌を動かして食べ物を喉の奥へ送り込むことが難しいケースがあります。
そういった方に対して無理に真っ直ぐ座らせると、かえって飲み込めず疲労してしまいます。そのような場合は、あえて車椅子の背もたれを少し倒し(リクライニング)、重力を利用して食べ物を喉へ滑り込ませる姿勢調整が必要になります。
「一番安全に食べられる姿勢」は患者さん一人ひとりで異なります。ご家族だけで判断せず、必ず担当の医師やリハビリスタッフ(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)に「うちの親に最適な食事の角度」を確認してみてくださいね。
まとめ
「お食事前の3分間体操」と「正しい姿勢のセットアップ」。 この2つを毎日の習慣にするだけで、いつもの食事が格段に安全で、美味しいものに変わります。
「最近、少しむせやすくなったかな?」と感じる方は、ぜひ今日の次のお食事から、この動画を食卓のお供にしてみてくださいね!
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