こんにちは。前回の記事では、お水やお茶への「基本的なとろみの付け方(ダマにならない3ステップ)」についてお話ししました。今回はその応用編です。
現場の介護で非常によく聞かれるのが、**「あれ?お茶と同じようにとろみ剤を入れたのに、メイバランスが全然固まらない!」**という困りごとです。 せっかくの栄養剤を無駄にしてしまったり、焦って粉を足して失敗してしまったりした経験はありませんか?
今回は、現役言語聴覚士(ST)が「特殊な飲み物にとろみをつける裏技」と、ご家族が勘違いしやすい「とろみの濃さの落とし穴」について解説します。
とろみ剤の天敵!?「メイバランス」にとろみがつかない理由
病院や施設、在宅介護でもすっかりおなじみとなった「メイバランス」や「エンシュア」などの高カロリー栄養飲料。食欲が落ちた高齢者にとって命綱とも言える存在ですが、実はこれらは、普通のお水やお茶に比べて**圧倒的にとろみがつきにくい(時間がかかる)**という特徴があります。
理由は、栄養満点だからこそたっぷりと含まれている**「タンパク質」や「脂質(油分)」**にあります。 とろみ剤の粉末が水分を吸おうとする前に、これらのタンパク質や脂質が粉の表面をツルッとコーティングしてしまい、水分を吸収する邪魔をしてしまうのです。
そのため、お茶と同じ感覚で混ぜても「あれ?シャバシャバのままだぞ?」という現象が起きます。 他にも、牛乳(タンパク質・脂質)、100%果汁ジュース(強い酸味)、お味噌汁(強い塩分)なども、とろみ剤が本来の力を発揮しにくい「とろみの天敵」たちです。
絶対にNG!焦って粉を「追い足し」してはいけない
ここで一番やってはいけないのが、「固まらないから」と焦って、すぐに粉を追加投入することです。
栄養飲料系は「全くとろみがつかない」わけではなく、コーティングのせいで「反応が極端に遅くなっているだけ」です。 焦って粉を足してしまうと、10分〜15分後に成分がじわじわと溶け切った頃には、スプーンが立つほどの**「セメントのようなガチガチの塊」**になってしまいます。これでは飲み込めないどころか、窒息の危険があり、高価な栄養剤を捨てることになってしまいます。
魔法の解決策は「待つ」こと!『2度混ぜ法』の手順
では、栄養飲料や牛乳にはどうやってとろみをつければ良いのでしょうか? 答えは非常にシンプルです。**「混ぜて、放置して、もう一回混ぜる(2度混ぜ法)」**を行ってください。
- 手順1:1回目の撹拌(かくはん) とろみ剤を入れ、前回のお茶の時と同じように「縦に切る」ように激しくかき混ぜます。(※メイバランス等は、元々お茶より多めの粉量が必要な製品が多いです。パッケージの裏面を確認してください)
- 手順2:放置タイム(★超重要!) ここで「まだシャバシャバだな」と思っても、絶対に粉を足さず、そのまま5分〜10分ほど放置してください。この間に、とろみ成分が油分のコーティングをすり抜けて、じわじわと水分と馴染んでいきます。
- 手順3:2回目の撹拌 時間が経ったら、再度しっかりとかき混ぜます。
たったこれだけで、時間が経っても固まりすぎない、滑らかで安定したとろみに仕上がります。
本当にその濃さで大丈夫?「薄いとろみ」の落とし穴
ここからは少し専門的なお話をします。 とろみの強さには、日本摂食嚥下リハビリテーション学会が定めた「共通のものさし(学会分類2021)」があり、大きく**「薄いとろみ」「中間のとろみ」「濃いとろみ」**の3段階に分けられています。
この表を見ると、一番軽い段階が「薄いとろみ(ポタージュスープ状)」になっているため、「まずはこの一番薄い段階から始めれば安全だね」と思い込んでいるご家族や介護スタッフが非常に多いです。
しかし、実はこれが大きな落とし穴になることがあります。
現場のSTがあえて「基準より薄く(微とろみ)」する2つの理由
実際の嚥下リハビリの現場では、あえて学会基準の「薄いとろみ」よりもさらに少ない粉量で作る、**「微とろみ(ほんのわずかにトロッとする程度)」**で調整することがよくあります。 なぜ基準よりも薄くするのか?そこには、STならではの機能的な2つの理由があります。
- 理由①:重くて喉の奥に残るから(咽頭残留のリスク) 加齢や脳卒中で喉の筋力(ゴクッと押し込む力)が弱くなっている方にとって、ポタージュ状のとろみは「重たすぎる」ことがあります。飲み込んだつもりでも、重たい液体が喉の奥のくぼみにベタッと張り付いて残り(咽頭残留)、その後に息を吸ったタイミングで気管にズルズルと流れ込み、肺炎の原因になってしまうのです。
- 理由②:わずかな「時間稼ぎ」ができれば十分だから(反射の遅延) むせる原因が「気管の蓋が閉まるタイミングが、ほんの少し遅れているだけ」の方もいます。この場合、重たいシロップ状にする必要はありません。「お茶より少しだけブレーキがかかる微とろみ」にするだけで、気管の蓋が閉まるまでの「0.5秒の時間稼ぎ」ができ、安全に飲めることが多いのです。
まとめ:とろみの濃さは「オーダーメイド」です
「パッケージや表に書いてあるから、絶対にこの濃さにしなきゃ」と思い込む必要はありません。とろみの濃さは、その方の「喉へ送り込む筋力」と「飲み込む反射のスピード」に合わせたオーダーメイドであるべきです。
ご自宅の介護で「とろみをつけているのに、食後にゼロゼロと痰が絡む音が増えた」という場合は、とろみが重すぎて喉に残っているサインかもしれません。ぜひ一度、訪問の言語聴覚士(ST)や主治医に「今の親には、どの程度の粘度がベストか」を相談してみてくださいね。
さて、水分へのとろみ付けについてはここまで。 次回は、いよいよお食事形態のお話です。「ミキサー食・刻み食」を作るとき、とろみ剤はどのタイミングで入れるのが正解なのか? 絶対に失敗しない調理の裏技をお届けします。お楽しみに!
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